書体についての小さな話3
by Akira Kobayashi
書体の名前のカタカナ表記
書体の名前は、ぱっと見ただけですぐに発音できないようなものもあって、難しいものは私の本『欧文書体』でも書いたとおりです。珍しい姓のデザイナーの名前になると、本人に直接会って聞いてみないと分からなかったりします。
Garamond を「ギャラモンド」と読むか「ガラモン」と読むかは、どちらが間違いということはないと思います。英単語のcaslte (=城)を米国式に「キャスル」と発音するか英国式に「カースル」と言うかと同じで、一方的に決めつける必要もないわけです。私が中学校で習った英語の授業では、英単語 often (=しばしば)を「オフテン」と発音すると減点されましたが、私がその後住んだロンドンでは、「オフテン」と言う英国人がたくさんいたので、私もそれに慣れてしまいました。
Futura の読み方は、日本では昔から「フーツラ」と「フ」にアクセントをおきますが、英語圏、ドイツ語圏では「フツーラ」のように「ツ」にアクセントをおいて後半を伸ばして読みます。でも、そんな些細なことにこだわってもしょうがないし、カタカナでの表記にも限界があるので、日本人どうしで書体の話をするときに混乱しないように、日本での習慣的な読み方で良いんじゃないかと思います。同様に「Bodoni」は日本では「ボドニ」で通っていても、英語圏、ドイツ語圏では「ド」を強く発音します。それに忠実にしようとすると「ボドーニ」と書くことになって、落ち着かなくなります。ちなみに、私の本では中庸の「ボドニ」「フツラ」としてあります。
つまり、これまでの慣例的な表記と適当に折り合いをつけておく程度が無難だと思います。日本語でしゃべっている時には日本語式の発音で、英語での会話の時は英語式の発音で、というふうに使い分ければ良いんじゃないでしょうか。なんでもかんでも西洋の読み方に近づけようとすると、私の名前は「アキーラ」になってしまいます。日本人から「アキーラ」と呼ばれると、ちょっと...
(文章:ライノタイプ社・タイプディレクター小林章)